ヤスリ事典
ヤスリの製作



「素材づくり」  −圧延・コミ抜き・火造り−

 まずは原材料づくりからです。 製鋼メーカーから購入した金属の棒〜直径20〜40mmの丸鋼は、 重油炉で約1000度に加熱、軟らかくします。 この赤熱された丸鋼を圧延ローラーに通し 必要な細さへと伸ばしていきます。
 所定の断面形状に圧延されたこれら長尺鋼材は、 定寸(5m)に切断され、各ヤスリメーカーに供給されます。

◆様々な形状に圧延された材料は、次の工程を経てヤスリになります。

1.定寸切断 → 2.コミ抜き → 3.鍛造成形 → 4.焼きなまし → 5.酸化スケール除去 →  6.ひずみ取り → 7.研磨 → 8.透き加工 → 9.目立て → 10.味噌付け →  11.焼き入れ → 12.表面仕上げ → 13.検査 → 14.包装

 ヤスリの形状に圧延された材料は、コミを含んだ長さに切断されます。
 コミ抜きは「柄」を造るための前加工です。 その方法には鍛造のために余分な部分を抜き取る「熱間打ち抜き」、 一度に柄を形造る「冷間打ち抜き」の2通りのやり方があります。 また穂先部分を火造りし、丹念に叩き、形を形成していきます。





定寸切断とコミ抜き:プレスで切断とコミ抜き 鍛造成形:自由鍛造でコミと穂先を成形する


「仕込み」  −焼きなまし・研磨−

 圧延されたヤスリの材料はこのままでは堅くて目が入れられません。 この材料を軟らかくするために焼きなましを行います。 焼きなましは760度から800度の高温で4時間ほど加熱して、炉の中でゆっくりと冷却、軟らかくします。
 780度で4時間も加熱すると、酸化スケール(酸化鉄の皮膜)ができるので、 酸洗い法やショットブラスティング法で除去します。また研磨機に取り付けやすくするため、 鍛造時の変形と焼きなましによる曲がりを直します。

 その後、酸洗い法やショットブラスティングで取り除けなかった酸化スケール層や脱炭層を取り除く作業、 加えて表面を均一に保つ研磨(けんま)〜研削除去の作業が行われます。 磨きは、造るヤスリの種類によって大型機械を使うもの、半丸などはグラインダーにといったように分かれます。
 次にモロテやすりで硬化層を取り除く透き加工を行います。細目や油目など目の小さいヤスリに適用します。





焼きなまし:電気炉で焼きなましをして軟らかくする 研磨:酸化層と脱炭層を研削除去する


「目立て(目切り)」  −機械切り−

 ヤスリに「目」を入れていく目立ての工程です。 単に目切りと言っても、その深さ、間隔はヤスリの種類によって異なります。 それを機械とタガネで調節していきます。
 全国95%のシェアを誇る仁方のヤスリ団地では、あらゆる種類のヤスリが造られています。 大きさのバリエーションはもちろん、単目、複目、鬼目など切る目の種類も多岐にわたっています。
 ヤスリの大きさによって機械の種類も変わっていきます。 大型機械を使っての鬼目の切り出し、裏面に入れる複目は別の大型機械で。 左右の横面にも細かく目が入れられていきます。 もちろんこの作業はヤスリのサイズが変わると、それに合わせた機械が対応していきます。

<タガネ>
タガネの刃先はひとつひとつ丁寧に研ぎ上げられます。細すぎると弱く、太すぎると切れがなくなる。 繊細さが要求される作業です。 そうして研ぎ上げられたタガネは目切りというヤスリ造りに欠くことのできない工程を 大きく左右する職人の命とも言うべき物なのです。


目立て:目立て機でやすり目をつくる


「目立て(目切り)」  −手切り−

 同じ鬼目でも、ひとつひとつ手で切り出していく方法もあります。 こうした目切りは今では主に東京で行われているもので、一部、仁方でも行われています。
 平などの目を切るときは、ヤスリの固定具を使います。 こうすることで一本一本の間隔を一定に保ち、均一な目を入れていく事ができるのです。
 オーダーメイドに対して自在に応えられるのも手切りの特徴です。 ごくごく小さなものから、形状の特殊なものまで、 そのバラエティーは限りなく広がります。


手切りによる目立て(横切り)


「味噌付け・焼入れ」

 目立てが終わると、ヤスリに命を吹き込む焼入れの工程へと進みます。
 仁方ヤスリの焼入れの大きな特徴は味噌を使うことです。 この味噌は硝酸カリウム、食塩、水などを加え撹拌します(かきまぜます)。 この味噌をヤスリに塗り付け乾かすことで、焼入れ加熱の際の水蒸気爆発を防ぎます。
 ヤスリの良し悪しを大きく左右するのがこの「焼入れ」です。 780度に熱したヤスリを、20度の水で急冷します。 加熱時に溶け込んでいた炭素を急速に冷やすことで無理矢理閉じ込め、 非常に硬いヤスリが出来上がります。

 味噌の内容とその塗り方は工場によって少しづつ異なります。 比較的小さなヤスリはブラシなどを通すことでより細かく浸透していきます。
 焼入れた後の冷却方法も、職人によって角度、かき混ぜなど独自の技術を持っています。





味噌付け:刷毛でやすり味噌をつけて乾燥させる 焼き入れ:予熱・本熱(鉛浴炉)後、保持具で挟んで焼入れ


「仕上げ」  −検査・包装−

 こうして出来上がったヤスリは最後の工程へと進みます。 ヤスリに付着した不純物や酸化膜などを飛ばす表面仕上げの作業です。





表面仕上げ:空気圧で研磨材を吹き付ける 検査と包装:割れと切れ味の検査をして包装する

 そして最後に「割れの検査」「切れ味の試験」などヤスリ一本一本を厳しくチェックし、 それを通ったヤスリだけが包装され、世に送り出されていきます。

 一本のヤスリが造り上げられるまで、そこには数多くの人の手と技術が加えられています。 ―――




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